アクションブログ
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国立市2030年CO2削減目標を引き上げ物語〜一人からはじめ、二人加わり、200人を巻き込んだ〜

2023.12.16

中央線沿線で新宿から電車で40分、人口約7万7千人の都内でも比較的小さな自治体である国立市が、日本トップクラスの温室効果ガス削減目標を掲げようとしています。2023年11月、国立市は温暖化対策実行計画(以下実行計画)の改定案において、2030年のCO2排出量を62%削減、温室効果ガス排出量を60%以上削減(共に2013年比)という高い削減目標を打ち立てました。

国立市の目標数値は、日本の温暖化対策にとってとても大きな一歩になります。その理由は、たんに1.5℃目標に整合する数値を掲げたということだけではありません。国立市の目標が大きな希望を感じさせる点は、1.5℃目標という世界中の科学者が示している目標を市民が訴え、その声を受けた行政が計画に反映させたからです。

そして、市民の声を伝える上で大きな役割を果たしたのが、国立市に在住・在学・在勤する3人のメンバーが2023年2月に結成したゼロエミッションを実現する会・国立(ゼロエミ国立)でした。

素案で素案が引き上がったことを報告したゼロエミ国立のインスタグラムの投稿

目次

62%という削減目標の重要性

62%という数字は、日本の温暖化対策にとって重要な指標の一つだと言えます。2015年にパリ協定で世界各国が合意したことは、温暖化を産業革命前と比べて1.5度までの上昇に抑えるということでした。もし1.5℃以上の気温上昇を許してしまえば、地球温暖化のドミノ倒しが始まり、その後の気候変動を止められなくなってしまう可能性が高まることから、1.5℃は重要な「ティッピングポイント(転換点)」と言われています。

そしてClimate Action Trackerという気候変動に関する複数の研究機関のグループによる報告では、日本が2013年度比で62%削減しなければ、温暖化を1.5度に抑えることは難しいと言われています。

しかし2021年4月に発表された現在の日本政府の目標は、2030年までのCO削減目標を2013年度比で46%削減するというものです。つまり現在の日本の目標では、1.5℃目標の達成に貢献するうえで不十分だということです。しかも、こうした国の姿勢を反映する形で、日本の各自治体も1.5℃目標に整合していない目標(2030年に46〜50%削減)を掲げているというのが現状です。

日本の政府や自治体の目標値が1.5℃目標に整合していないことは、現在と将来を生きる人々に大きな不安を与えています。気候変動の問題に取り組む若者のグループFridays for Future Japan(FFF Japan)のメンバーが参考人として国会で意見を述べたとき、こう訴えています。「菅首相から、2030年温室効果ガス削減目標を2030年比46%にするとの発表がありました。私はこの数値を聞いた時、みなさん方大人に、『あなたたちの命と未来はいらない』と宣告されたように感じました。絶望しました。この46%という目標は、気候危機から国民の命を守るという責任を放棄したように思います」(温室効果ガス「46%削減」は高い?低い?その具体策は?そもそもNDCって?

FFF Japanの若者だけでなく、気候危機を不安に思う日本や世界中の人々が、46%や50%という数字から、未来に対する無責任なメッセージを受け取っているのです。

そうした中で、2030年に温室効果ガス60%以上、COを62%削減するという国立市の目標は、私たちに希望を与えてくれます。これまでにも、いくつかの自治体が国の目標を大きく上回る計画を立ててきました。例えば、2030年の温室効果ガス削減目標として60%を掲げている長野県神戸市、60%以上としているのは木更津市高知県黒潮町です。その中でも、CO2と温室効果ガスを分けて高い目標を掲げているのは東京都世田谷区だけであり、温室効果ガス57.1%、CO62.6%削減を目標としています。これらの自治体と比較しても、国立市は日本トップクラス(2023年12月時点)の目標を掲げようとしていることが分かります。

しかし、国立市は最初から高い目標を掲げていたわけではありませんでした。国立市は実行計画の改定に先立ち、「ゼロカーボンシティ実現に向けたロードマップ」(以下ロードマップ)という情報資料集を作成していました。しかしこのロードマップで掲げられた2030年までの削減目標は、国や都の目標に沿った46%〜55%の3つのシナリオしか想定されていませんでした。 

1人の国立市民の行動がきっかけ

この状況を覆し、日本でもトップクラスの目標を掲げるに至ったのは、ゼロエミッションを実現する会に所属する1人の国立市民の行動がきっかけでした。彼女はクライメートアクショントラッカーの試算を根拠として、より積極的な目標を掲げる必要性を国立市の環境審議会で訴えました。46〜55%削減という3つのシナリオに加えて、国立市が62%削減という4つ目のシナリオをロードマップに追加したことが、最初の大きな一歩になりました。そして、この4つ目のシナリオこそが、実行計画の改定案で掲げられた削減目標として採用されていくことになります。

ゼロエミ国立のアプローチ

ゼロエミ国立は、2023年11月に公表される実行計画の素案において、この4つ目のシナリオである、2030年62%削減目標を掲げてもらうことをゴールに定めて、2023年4月から本格的な活動を開始しました,2024年3月に議会に報告される実行計画の最終案ではなく、2023年11月に公表される素案をターゲットにしたのには理由があります。目標値は計画全体にかかわる問題であるため、最終案の段階で目標値を変更させるのは難しいと考えたからです。そこで、素案が完成する前の2023年秋までにアプローチすると決めたのです。

ゼロエミ国立が最初にアプローチしたのは、市の計画について最終的な決定権を持っている国立市長でした。市の職員や市議会から働きかけ、5月18日に第1回目の市長面談が実現しました。ゼロエミ国立メンバーは、1.5℃目標の重要性、ロードマップの問題点、他の自治体が取り組んでいる先進的な対策の事例などを、144ページのスライドにまとめて説明しました。

(5月18日市長面談の様子)

さらに8月8日、専門家を交えて、市長や副市長との2回目の面談も実現しました。2人の専門家からは、徹底的な省エネ対策と建築物の断熱性能がいかに重要であるか、そしてそれらを進めるためにはどのような政策が重要であるかを説明してもらいました。

こうした面談を踏まえ、ゼロエミ国立は62%の目標を掲げるように求める意見書を市に提出し、温暖化対策に関する市の立場について回答を求めました。さらには市議会からも、ロードマップの62%目標についての市長の見解を尋ねるという一幕もありました。

しかし、市長から必ずしも明確な回答を得られなかったゼロエミ国立は、現場の職員にも対話をもつことにしました。温暖化対策について市長に明確な立場がないのであれば、計画を策定する現場の職員の考えの方が重要なのではないかと考えたからです。また、ゼロエミ国立から市長に意見を伝えて回答を求めると、対応するのは決まって実行計画の担当職員の方々でした。そのため4月から何度も面談を重ねてきたことで、ゼロエミ国立と担当職員の間で信頼関係が生まれていきました。

ゼロエミ国立が62%目標に対して熱い思いを持っているということが担当職員の方々に伝わり、8月には市で実施された温暖化対策に関する市民ワークショップにゼロエミ国立のメンバーが登壇する機会をもらいました。「1.5℃目標の重要性を一番理解しているのは、ゼロエミ国立の皆さんだと判断した」というのが、職員の方々の判断でした。職員が削減目標の積み上げや細かな計算に着手しはじめていたこともあり、ワークショップの配布資料でも国立市は53%から最大60%まで削減が可能と説明する程になっていました。

職員との面談を通じて分かってきたのは、計画を策定する職員の側にも大きな不安があるということでした。職員は議会や審議会で実行計画について説明責任があるため、根拠のない施策を掲げることは出来ません。また政策の根拠や必要性があったとしても、そのための施策を国立市民が支持してくれるのかどうかも自信が持てない様子でした。

こうした担当職員の変化や考えを踏まえ、8月から9月にかけて担当職員が自信を持って62%目標を掲げられるようにするためのアプローチを開始しました。

市民が応援している声を可視化する

まず最初に進めたのは、国立市民が温暖化の影響をすでに受けていて、市に対して積極的な対策を求めていることを可視化させるためのインタビューでした。活動を通じて知り合った26人にインタビューを実施したところ、温暖化が市民の生活に大きな影響を与えていることが分かりました。市内を散策したり通学しているだけで身の危険を感じる暑さに直面していること。幼児や高齢者、ハンディキャップを持った人々は、日中の活動時間や活動場所が大きく制限されていること。降雨量が減少して農作物が取れなくなっていることや、反対に極端な豪雨被害に遭って引っ越しを検討していること。光熱費の高騰で生活が苦しくなっていること。そして小さな子どもでさえ、「地球沸騰化」という言葉を知っており、自分たちが対策しなければ大好きな動物たちが死んでしまうこと。インタビューを受けてくれた多くの国立市民が、こうした温暖化を止めるための積極的な市の政策を応援すると答えてくれました。こうした声を動画にまとめて、市の職員に見てもらい、市長にも提出しました。

次に、国立市の担当職員を応援する「エールアクション」をしました。ゼロエミ国立のメンバーは、他の環境団体での活動経験から、行政に対して強い対決姿勢で望むアクションは日本の市民にとって参加のハードルが高いということを感じていました。そこで、62%削減シナリオを「検討している」ことを強調して、国立市を応援するコメントを全国の市民から集めれば、応援を送る側も受け取る側にとっても積極的に行動するきっかけになるのではないかと考えました。

そこで、9月18日に開催された「ワタシのミライ イベント&パレード」のゼロエミブースで、「エールアクション」の署名活動を行いました。「国立市が62%目標の設定を検討しているから応援してくれない?」と呼び掛けると、イベントに来た多くの人が「すごいね!ぜひ応援したい」と反応してくれました。また他の地域のゼロエミッションを実現する会のメンバーや、350.org JapanやグリーンピースなどのNGO、FFF TokyoやFFF Yokohama、国立市民にも協力を呼びかけました。その結果、署名141名、直筆で寄せ書きを書いてくれた方30名、担当課に直接メールや電話をしてくれた人、署名を届けるために市役所に集まってくれた人、合計で200人前後の人がエールアクションに協力してくれました。

上:ワタシのミライ イベントブースで 下:国立市にエールアクションの署名や寄せ書きを手渡した

職員とのやり取りや市議からの情報提供もあり、国立市職員は58%削減まで積み上げを行っている様子でした。あと4%分、約1万1千トン-CO2に相当する削減量の積み上げがあれば、62%に到達するのではないかと考えました。そこでゼロエミ国立は、専門家の試算から1万800トンを削減できる対策を職員に提示することで62%目標を掲げてもらおうと考えました。その専門家の方は7月頃から国立市の温室効果ガスの削減量について試算し、さらに10月までにゼロエミ国立メンバーと何度も勉強会を行ってくれたため、国立メンバーは62%削減を実現させる施策について具体的に説明出来るようになっていました。また国立市の側でも議会やゼロエミ国立からの提案を受けて、専門家と個別の面談を行うようになっていました。

そして10月30日、ゼロエミ国立、市の職員、専門家、実行計画に関わるシンクタンクによる四者面談が開かれました。ゼロエミ国立からは、省エネ機器の導入や断熱等級6・5の普及による2万7千トンの削減、ロードマップでは対策に含まれていなかった温室効果ガス5000トン-CO2相当を削減が可能であることを提示しました。そしてそれを可能にする国立市の取組みとして、市内工務店や電気屋、大手ハウスメーカーや家電量販店との協定、市の独自の断熱基準の普及、市民や市内事業者が省エネ点検をいつでも相談できる常設窓口の設立。こうした市のレベルで取り組める施策を具体的に提案し、いずれかの施策を計画に盛り込むことで1万トン分の追加削減が見込めるのではないかと提案しました。

四者面談では具体的な目標値についての合意を得ることが出来ませんでした。この交渉の結果がどのように反映されるのか、これを知るには実行計画の改定素案が発表されるのを待つしかありませんでした。

62%目標の採用に至った市民の力

そして四者面談から約1か月、11月27日の国立市環境審議会で公表された実行計画の改定素案には、なんと2030年までにCO2を62%削減し、温室効果ガスも60%以上削減するという目標が書かれてありました。これを見たゼロエミ国立メンバーは慌てて市役所に向かい、職員の方に「これは事実上、ロードマップのシナリオ4を採用したってことですか?」と聞きました。すると職員も「はい、そうなりますね」と答えてくれたのです。ゼロエミ国立は結成から9か月にして、目標を達成することができたのです。

ゼロエミ国立の活動が62%シナリオの採用につながったのは、大きく分けて3つのポイントを重視したことにありました。国立や全国の市民と顔が見える関係を数多く築いてアクションに参加してもらえたこと、計画を策定する職員にターゲットをしぼって彼らと友好的な雰囲気で何度もアプローチしたこと、そして専門家を職員につないで政策の根拠を具体的に提示したことでした。

話し合いを通じて、職員のみなさんは市民からの支持と政策上の根拠を必要としていることが分かりました。そこで、エールアクションやインタビューでは、職員を応援する数十人、数百人の市民の声を集めてに伝えました。また、市民から専門家を紹介して話し合いの場を設けることで、市に必要な施策についての情報提供を何度も行いました。

市民のパワーと専門家の情報を、特定の政策決定者に友好的な形で繰り返し伝え続ける。これが、ゼロエミ国立のアクションの重要なポイントだったと言えます。しかし、この成功も最初はたった1人の勇気ある行動からスタートでした。一人の行動がきっかけとなってゼロエミ国立というチームの結成につながり、国立市の目標を、1.5℃目標に整合する日本でもトップクラスの数値にまで押し上げました。

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