長野県2030年CO2削減目標引き上げ物語—
—パブコメって反映されることがあるんです
2021.05.24
長野県の2030年温室効果ガス削減目標がパブリックコメント(意見公募)の後、「ゼロカーボン戦略案」の数字が引き上げられました。
気候変動対策をリードする長野県
長野県は、気候変動対策が進んでいることで、気候変動活動家の間では有名です。
その長野県が「ゼロカーボン戦略」— 2050年までにどのように温室効果ガスの排出を実質ゼロにするのか、という戦略案を発表しました。
4月1日から、市民の意見を募集する「パブリック・コメント」がはじまりました。
このパブリックコメントには、「ゼロエミッションを実現する会」の参加者も、多くの方がパブリックコメントを提出しました.。
そしてゴールデンウィークのさなかの4月29日、「ゼロエミッションを実現する会」で長野県のゼロカーボン戦略を読んで検討する会がもたれ、20人あまりが参加しました。
「ゼロエミッションを実現する会」の吉永さんは、どうしたら、長野県の目標引き上げを確実にすることができるのかを考え、長野県のゼロカーボン戦略(案)を必死に読みました。「あれぇ?2030年の再生可能エネルギー電気自給率が82%なのになぜ電力由来のCO2が大きく減少しないのかな?」と疑問に思ったそうです。
そう気づいたのは、東京都の詳細資料から東京都でのより大きな削減のための再生可能エネルギーの試算をしていたからでした。
そして、長野県の担当者に電話して目標設定の考え方を詳細に確認しました。
その結果、長野県の削減見込みは過小評価なのではないかと考えました。
計算してみると68.5%削減までの積み上げができそうなことが見えてきたそうです。
「これは長野県の方に伝えなくてはいけない」そう考えた吉永さんは、長野県の環境政策課に連絡をとって、「もっと削減目標の引き上げができるのではないか」と話しました。
そして「ゼロエミッションを実現する会」の長野県から参加されている方に「長野県の2030年目標は引き上げることができる」ことを伝えました。
・高い目標を掲げることの大切さ
・長野県の削減見込みが過小評価であり、もっと積み上げができること
・科学は日本に2030年62%減を求めていること
2030年62%は、研究機関クライメート・アクション・トラッカーが出した数字です。
Climate Action Tracker P9より
クライメート・アクション・トラッカーは、1.5度目標達成のためには少なくとも日本の2030年削減は62%以上を要するとして大きな削減が必要としています。また同団体は2021年5月4日に「日本や米国などが新たに発表した2030年までの温室効果ガス排出削減目標を達成しても、世界の平均気温は産業革命前より2.4度上昇する」と発表しています。
また、国連環境計画は2019年GAPレポートで1.5℃目標を達成するには2020年から排出削減レベルを5倍にする必要があると指摘しています。
国連環境計画 GAPレポート2019 P9
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/policyreport/jp/10436/UN_Emissions+Gap+Report_2019_J.pdf
1.5度未満におさえる気候危機突破のためには2030年までの排出量削減を大きくしなければならないというのが科学的知見であり、上記のとおり2030年までに大きく減少する線形となっています。
長野県の線形は、案では以下のように2050年までの直線でした。
気候危機を回避するために、2030年までがんばる曲線「船底型」は、環境省のマニュアルでも地方公共団体の判断で設定できるとされています(下図参照)。
環境省 地方公共団体実行計画(区域施策編)策定・実施マニュアル算定手法編P227
国は46%を表明し50%への引き上げも目指し、東京都は2000年比でCO2の半減をめざすカーボンハーフ戦略を表明しています。これは2013年比では55%になります。
また、札幌市は2013年比59%削減を目標としています。(2021年3月)。
国際的にはドイツが5月5日に65%以上への引き上げを表明し、英国は68%減としており本年のCOP26 までに各国の目標引き上げが予想されています。
船底型こそが、気候回避できる線形です。
長野県政史上最高のパブリックコメント数と応援メール
どうしたら長野県知事と長野県の担当者にそれを伝えることができるのか。
長野県の地球温暖化対策専門委員会の委員にも連絡をとりました。
長野県の方々を交えて、県と意見交換もしました。
パブリックコメントは県政史上最多の180の意見が寄せられたそうです。
そして、目標引き上げのために知事を後押ししようと「ゼロエミッションを実現する会」で知事へ応援のメールを送る呼びかけをしました。これに環境アクティビストコミュニティGreenTEAのUkaさんが呼応して、インスタグラムを通じて広く呼びかけてくれました。グリーンピースでも登録ボランティアさんに呼びかけ、350.orgのボランティアさんにもよびかけがなされました。
きっとたくさんのメールが知事に届けられたと思います。
長野県が目標引き上げを公表
そして5月14日金曜日も夜になってから、ゼロカーボン戦略素案の修正版が公開されたのです。そこには、2030年の目標が2013年比で6割減とありました。
以下のグラフは「第6次長野県職員率先実行計画」で、長野県全体のものではありませんが、2050年までの線形が直線から、2030年までをうんとがんばる船底形に変化しました。
県全体としても、考え方は同様です。
……
パブコメ以降、変わったゼロカーボン戦略変更点まとめ
●ゼロカーボン戦略案のポイント P1
当初「IPCC ”1.5℃報告書” が求める 2030 年の正味排出削減目標 ▲45%を上回る▲48%」
↓
パブコメ後「日本の脱炭素化をリードする野心的な削減目標 “2030 年までに6割減“ を目指す」
【長野県2030年温室効果ガス削減目標48→60%】
●ゼロカーボン戦略案 P24
「さらに野心的な追加的努力を加味して算出しました」新たに追加
●県の率先行動 P7
バックキャスティングのグラフが追加されました
2050年まで直線で結んだものを2030年までを急角度にしたことの説明
これは事務事業編という県の削減計画ですが、長野県全体の区域施策編を2030年6割減にしたものも同様な2030年前倒し削減の線形と県に確認しました
…..
高い目標は気候危機回避へのメッセージ
5月17日月曜日の長野県の地球温暖化対策専門委員会では、冒頭、環境部長が「目標値引き上げを求めるパブコメが多く、思い切った見直しに踏み切った」と挨拶されました。部長・課長からは会の中で何度も、「たくさんの、また、熱心なコメントをいただいて…」という言及がありました。
専門委員の茅野恒秀信州大学学術研究院准教授からも、県外でも、長野県のゼロカーボン戦略を読み解く会が開催され、(ゼロエミッションを実現する会でおこないました)目標値が過小評価だったのではないか、再生可能エネルギーによる発電分を評価にいれるべきとの意見がでたことが紹介されました。
千葉商科大学准教授田中信一郎委員からは、60%に引き上げたので、施策の積み上げが必要として、REアクション(再生可能エネルギー100%をめざす)参加企業を増やすことや、ソーラーシェアリングの施策が足りないこと、既存公共施設の断熱改修を行うべきことなどの指摘や具体策の提案がありました。
東北芸術工科大学竹内昌義教授は、若者からもっと高めてという意見がきているとして、建築物の断熱性を高めた上で太陽光を載せるべきこと、公共建築物の断熱改修をすすめるべきこと、さらに一般住宅についても窓を取り替えるか内窓をつけるなどの具体策が示されました。
認定NPO法人環境エネルギー政策研究所飯田哲也委員は、将来の再生可能エネルギー100%の社会は可能として長野県は風力ができないので太陽光に全力をあげるべきであり、ソーラーシェリングはもっとふやせるとしました。
東京大学未来ビジョン研究センター高村ゆかり教授は、60%という目標引き上げに異存なしとしながら、「この目標は決して簡単ではない。実際の削減量はやってみないと分からない。まずは60%を超えるという気概で取組みに知恵を割いてください」とコメントしました。
「ゼロエミッションを実現する会」にも参加している長野県の藤川まゆみさんは17日の専門委員会の議論を聞いて「目標値が42%のままだったらこんな熱く厳しい議論にはならなかったと思います。目標の数字はメッセージですね。実感しました。」と投稿しています。
パブコメを反映させ、目標を引き上げるために、あっちからはこうする、こっちからこうするというふうに、多くの方々が動いたことで目標が引き上げられました。
今後、長野県は6月1日に環境審議会を開き、ゼロカーボン戦略案について専門委員会での議論が報告され、6月8日の「長野県ゼロカーボン戦略推進本部会議」でゼロカーボン戦略が決定される予定です。
気候危機回避へ動こう、今すぐ
なお、「ゼロエミッションを実現する会」では、さらなる高みを目指して68.5%目標を提言(リンク)しています。
気候危機はまったなし! あなたも自らの自治体の気候変動対策強化に取り組みませんか?
いままで取り組んだことのない方でも大丈夫。
「ゼロエミッションを実現する会」には、たくさんの仲間がいます。
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